私は「この乗り方でやってきて、40年間、バカバカしい事故はなかった。
絶対大丈夫」と考え直して自信を取り戻すようにしている。
精神的なものはとても大きい。
自信を失うと周囲から事故が降ってくるような気がして、どうしても弱気になる。
おそらく六十五歳以上のドライバーでどうしてもスピードが出せないという人は、そういうことで自信をなくしているのではなかろうか。
しかし、運転免許歴が長く、しかも法律上許されている視力があれば、そんなに恐れることはないのだ。
ある医者の先生に聞いたところ、六十歳や六十五歳で、そうそう筋力は衰えるものではないのだそうだ。
ピアニストのルピンシュタイン日く、フォルテッシモのときだけは、さすがに若干、音が落ちるかもしれないということだが、彼の演奏は老いてますます盛んであった。
高速道路には印km/hの最低速度というものが定められている。
これからもわかるように、高速道路ではある程度のスピードに乗って走らないと危険である。
スピードに慣れるには、やはりふだんからよく走りこんで慣れるしかないのだが、どうしてもクルマの流れに乗れない、いちばん左側の車線を走るのさえ苦痛であるとなったら、いさぎよくクルマから降りるしかなかろう。
こうなったら普通の道路を走るのだって危ないのだから。
《日車線変更》ミラーをよく見て、いやというほど後方確認を高速道路を走るときのポイントそもそも老人でなくとも、高速道路での車線変更には相当神経をつかう。
バックミラーだけで後ろにクルマがいないと思ってレーンを移ると、ピラー(いちばん後ろの柱)の死角に隠れていたクルマが突知現れてドキツとする。
こんな体験はどんなドライバーでもあるはずだ。
本来、車線変更するさいはバックミラーだけでなく、首を後ろに振って、自分の目で後ろにクルマがいないか、確認するべきだ。
とくに合流などではこいつは必須である。
しかし、そうはいっても老人になるとこいつが億劫でしょうがないのだ。
私もジジイになってよくわかったのだが、身体が固くなっているものだから、首を後ろに振るのがつらいのである。
歳をとってからの身体の固さといったら、リアシートに置いてあるものを取ろうとして身体をひねるとそれだけで筋肉がつってしまい、「イテテテテ」などとみっともないことになってしまう。
またハンドルを握ったまま首を後ろに振ると、クルマの進行方向が若干ズレたりする。
これもイヤだ。
そんなわけで歳をとるにつれて身体を動かさず、ほとんどバックミラーだけに頼るようになっていく。
これはまあ、歳をとったのだからしかたがないのだが、だからといって後方確認がなおざりな車線変更をするのはきわめて危険である。
そこで私がいいたいのは、ルームミラーだけでなくサイドミラーもしっかりお使いなさいなということだ。
ルームミラーで確認したら、かならずサイドミラーも見る。
これだけでずいぶん違うのである。
ただ、サイドミラーも、ボディの映り込みをほんのわずかにして、視界が広くなるように調整していると(私の場合がそうだ)、ごく間近に迫っているクルマが見えない可能性がある。
そこで前にも述べたが、サイドミラーの死角をツプすために、自分のレーン内でほんのわずかだけクルマをずらしてやるといい。
そこでチラッとほかのクルマが入ったら、もう車線変更はやめる。
これだけでつまらない事故のおおかたは防げるはずである。
いずれにせよ車線変更をするときは、いやというほど後方確認をしてしすぎることはない。
それをしないと後ろのドライバーを驚かしてしまうし、こちらもドキツとすることになる。
老人ドライバーよ、バックミラーを見ることを忘れるなかれ。
クルマは自分だけが走っているのではないのである。
《高速道路への合流》危ないと思ったら無理をせず止まってしまえばいい本来、高速道路の合流はらくちんのはずである。
なんとなれば合流車線のアプローチが長くとってあるので、加速する時聞が十分取れるし、その間、本線上の空いているところを見つけるのもたやすいからだ。
右へ寄りながらバックミラーで後方を確認し(できれば、首をまげて直接確認すること)、一気に加速して本線の空いているところで合流する。
もちろんその間、ウィンカーはつけっぱなしである。
なるべくアプローチをたっぷり使って、余裕をもって合流するのがコツだ。
しかしこの原則通りにいかないのが、たとえば首都高速のような中途半端に設計された、ハイスピードで走っている自動車専用道路への合流だ。
こいつは老人にとって鬼門中の鬼門である。
首都高速は「土地はありません」ブカネは足りませんという財政的事情だけで、しっかりした思想なしに作られたから、本線へ合流するアプローチがないに等しくほとんどT字路みたいな合流地点がある。
しかも追い越し車線に合流させたり、本線がカーブしていて前方の状況がまったく見えない先で合流させたりと、無秩序のかぎりだ。
たとえば霞が関から都心環状線への入り口、あるいは初台から四号線への入り口あたりはなんとも危ない。
これはもはや犯罪といっていい。
私は、首都高速道路公団はドライバーに「死ね」とでもいうのかと、ほんとうに怒りたくなる。
ここへ合流するのは若いドライバーでも命がけだ。
加速レーン上で止まってしまったらもう最後である。
本線上には次々とクルマが流れてくるので、いつまでたっても入れない。
そこで、エイヤツとばかりに短時間で加速して、後ろからきたクルマが減速してくれるか、レーンを変えてくれるかを期待して「あなたまかせ」で入らなければならない。
しかし、私は老人ドライバーには、こういう場合は無理をせず、危ないと思ったらアプローチ上で止まってしまいなさいなといいたい。
あせることはない。
後ろからクラクションを鳴らされたら、「ゴメン、ゴメン、だってジジイだから遅いんだよ」と居直ってしまえばいい。
そして、いつかはクルマの流れが切れるところがあるから、そこであわてずに入るのだ。
老人ドライバーは、ともかく戦後五O年、社会のために働いてきたのだからと、自信をもって、ゆったりとした気持ちで運転することだ。
なんとか若い人に伍して、迷惑をかけないようになんて絶対に考えてはいけない。
高速道路でむずかしいのは、料金所を抜けてからだ。
日本の高速道路の料金所は加速するアプローチがどこも短く設計されているので、ここでモタつくとえらいことになる。
両側から大型トラックにはさまれるなど、ひどい目にあう。
料金所をうまく抜けるコツは、いちばん左側か、あるいはいちばん右側のゲートから抜けることだ。
右でも左でも、どちらでもいいから、壁ぞいに走るのである。
車線変更をしなくてもよい状況を選ぶのだ。
また、料金所のゲートはどこへ行ってもいちばん左側がもっともすいていて、いちばん早く抜けられるというオマケもつく。
合流する本線が渋滞している場合、これはもう老人のものである。
すくなくとも東京にかぎっていえば、こういう場合、本線に入ろうという相手を通せんぼするクルマはほとんどいなくなった。
よほど精神生活の貧しい人間でないかぎりスペースをあけてくれる。
東京の交通マナーは、いまやロンドンと同程度、世界で一、二のレベルにあると思う。
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